和歌山市の廃旅館7000万円代執行に見る“所有者不明空き家”の重さ

※写真はイメージです(本文とは関係ありません)

2023年、和歌山市雑賀崎で、倒壊のおそれがあった廃旅館が略式代執行で解体されました。報じられた解体費用は約7000万円。この金額だけを見ると、「自分には関係のない特殊な大型物件の話」に思えるかもしれません。しかし背景をたどると、名義が整理されていない実家や、誰も住んでいない相続不動産にも通じる話が見えてきます。

「所有者がいない家」は、どうやって生まれてしまうのか

和歌山市が略式代執行で取り壊したのは、延床面積937㎡の元旅館。1970年代まで営業していた建物は、2014年に運営会社が経営破綻した後、使われないまま時間だけが過ぎていきました。その後、所有者が亡くなり、相続人が相続を放棄。「所有者がいない家」は、どうやって生まれるのでしょうか。

2018年には台風で3階部分が半壊し、部材が近隣へ飛散する事態も発生しました。建物が建っていたのは土砂災害警戒区域で、通学路や避難経路にも接する場所。危険は敷地の内側で完結するものではなく、周辺住民の暮らしに直接届くものになっていました。和歌山市は2023年3月に所有者不明のまま撤去を公告し、同年6月に解体工事を開始。2024年3月の完了まで、およそ9か月をかけた大規模工事になりました。

出典:和歌山市「特定空家等の略式代執行について」 

名義が止まると、不動産の選択肢は静かに消えていく

一見すると「古くて大きな建物が放置された話」ですが、本質は別のところにあります。所有者が分からない、あるいは判明しても連絡がつかない。その瞬間から、売却も賃貸も解体も、家族の意思で進められなくなります。

法務省によれば、いわゆる所有者不明土地の発生原因のうち、およそ3分の2を占めるのが相続登記の未了です。2024年4月から相続登記の申請が義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が求められるようになりました。義務化前に発生した相続も対象で、2027年3月末までの対応が必要とされています。怠れば10万円以下の過料の対象にもなり得ます。

そして空き家そのものも増え続けています。2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%と、いずれも過去最高を更新しました。和歌山県に限れば空き家率は21.2%と全国トップクラス。今回の廃旅館は極端な例であっても、「名義が止まったまま時間が経過する不動産」は、実は誰の身近にあってもおかしくない状況に近づいています。

出典:法務省「相続登記の申請義務化について」 

出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」 

※写真はイメージです(本文とは関係ありません)

放置のツケは、家族の外側にも届いてしまう

空き家を抱え込んだままにするコストは、所有者の家計だけで完結しません。老朽化が進めば、近隣の安全や景観、通学路の通行にまで影響が出始めます。和歌山市の事例では、解体費用の約4割にあたる2800万円ほどを市が負担したと報じられており、その原資はもちろん税金です。本来ならば別の行政サービスに使えたはずのお金が、動けなくなった不動産の後始末に回った計算になります。

さらに見落としがちなのが、所有者自身が失う選択肢の多さです。早い段階で動けば、賃貸に出す、リフォームして活用する、適正価格で売却する、といった道筋が残されています。ところが時間を置くほど建物は傷み、家族内の意見もまとまりにくくなり、最後には「解体して更地に戻す」以外の出口が見えなくなります。建物を残せば固定資産税の住宅用地特例で税負担が軽くなるという発想も、特定空家等として勧告を受ければ通用しません。

つまり放置とは、何もしないことではなく、選べる範囲を静かに狭めていく行為です。実家や相続予定の不動産を抱えている方にとって、いま必要なのは大げさな行動ではなく、名義の確認と家族での対話という、ごく当たり前の一歩だと思います。

オハナホームでは、相続診断士・終活カウンセラー・空き家再生士の視点から、査定・買取・片付け・再生まで一貫してご相談いただけます。「まだ決められない」「何から手をつけていいか分からない」という段階でも構いません。止まったままの不動産を、もう一度動かしていくためのお手伝いをしています。

This entry was posted in 新着情報. Bookmark the permalink.